今年度三島賞作家、古川日出男の日本推理作家協会賞&日本SF大賞受賞作。
ナポレオン艦隊の迫り来るエジプト。侵略を前にアイユーブは、読む者を魅惑し破滅に追いやるという「災厄の書」の創出を企てる。
大作である。その分量もその想像力も含めていろんな意味において、大作と言って過言ではあるまい。
ナポレオン迫るエジプトで語られる、民間伝承とも神話とも言える物語。その物語の構造の大きさがまず目を引く。その長大な物語において、三人の人物のエピソードを丁寧に作り上げ、一人の魔女のもとに収束させていく手腕は見事だ。その重層的ともいえる構造の確かさは雄大であると共に、芸術的でさえある。
そしてその長大さの中で綿密に張られた伏線、章や視点を変える際の引きの上手さ、そしていくつかの謎解き、とにかく精緻に組まれたプロットにはため息が出る。加えて、その中にアクションを盛り込んだり、サービス精神はとにかく満点。
それに凝った文体で神話的なイメージを生み出し、幻想小説としての趣きを加味しているのも際立った特徴だ。
とにかくエンターテイメントしてはこの上ないくらいに贅沢すぎる一品である。
読んでいる最中は夢中になって読んだ。
しかし読み終えた後にはなぜだろう、長く心にとどまらないのである。うまく言えないが、どうにも心に響いてくるものがないのだ。
確かに本作はおもしろい。エンタメとして最高だし、大作として認めるにやぶさかでない。しかし残念ながらそれ以上ではないのだ。
贅沢すぎる望みだが、もう少し+αがほしかったというのが率直な意見である。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
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